家族信託のメリット・デメリット

家族信託のメリット・デメリット

メリット

家族信託には多くのメリットがありますが、その中でも特に代表的なものとして、
①「従来の制度では難しかった、オーダーメイド型の資産管理・運用ができること」
②「遺言書(民法)ではできないことができる」

という2点を挙げることができます。
これらを含め、家族信託のメリットについて以下で説明します。

デメリット

家族信託には、特段のデメリットというものはありません。
しかし、設計や実施に際して気をつけなければならないポイントがいくつかあるので、事前にこれらをしっかりと理解しておくことが必要です。
また、税務的な効果を目的として家族信託の利用を検討される方もいらっしゃいますが、家族信託自体には税務的なメリットもデメリットも存在しないことには注意が必要です。

メリット

  • 自由・柔軟な資産管理処分の実現
    本人の元気なうちから資産管理を託せるとともに、託した後も本人の体調や判断能力に左右されない資産処分ができます。
    本人の判断能力が低下・喪失しても、意思確認手続は本人に対して行われないので資産凍結を防ぐことができます。
    資産管理をする者(=「受託者」)の主導で資産管理や処分が実行できます。
    →認知症による資産凍結対策

  • 遺言書ではできないことが可能
    受益者の死亡により、回数の制限なく、二次、三次と指定された者に順次承継される旨の定めを契約で定めることができます。
    ただし、信託期間は信託法第91条により、信託されたときから30年を経過後に新たに受益権を取得した受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでとされています。
    30年を経過した後は、受益権の新たな承継は一度しか認められていません。
    二次相続の指定、受益者連続型信託

  • 事業承継が可能
    株式は信託することにより自益権と共益権に分離することができます。
    財産的な評価の対象は自益権にあたる部分で、これが受益権になります。
    共益権を行使するのは受託者です。
    本人が委託者兼受益者、承継者を受託者とする信託契約を結ぶことにより、株式は本人が所有したまま、受託者が議決権を行使することができます。
    受託者に議決権のみがある状態で、会社の利益を減少させる等の株価対策を時間をかけて行い、株価が安くなった段階で贈与をすることができます。
    株式の評価が安くなった時期に委託者兼受託者を本人、受益者を相続人という信託契約(=自己信託)を行うことで、贈与税もかからず承継させ、本人は議決権を行使することができます。

  • 倒産隔離機能
    本人や受託者が多額の債務を負っても、信託財産は差し押さえられません。

  • 教育資金を贈与し続けることが可能
    必要な時期に贈与をすることができます。
    教育資金の贈与については、「一括贈与」という制度があります。
    (30歳未満の子供か孫に対してなされた教育資金としての贈与が1,500万円まで非課税となります。銀行に専用口座を開設し、支払った教育資金の領収書を金融機関に提出しなければなりません。ただし30歳を過ぎて、その資金が残っている金銭に対しては贈与税がかかります。)
    ここで、委託者兼第一受益者を祖父または祖母、受託者を父又は母、信託財産を孫の教育費、契約内容を委託者の意思能力がなくなった後に孫の教育費を贈与するとしておきます。
    そうすると、祖父または祖母が元気なうちは自分の財産から贈与を行い、意思能力がなくなっても受託者である(父または母)が裁量で孫に信託財産から贈与をし続けることができます。

  • 相続時の争いの軽減
    本人を受益者、第二受益権の指定をしておくことで、本人が死亡したあとに、遺言や遺産分割協議書も必要なく承継させることができます。

  • 不動産の共有問題
    共有不動産は共有者全員が協力しないと処分できません。
    現在は一人名義でも、将来的に親子や兄弟などで不動産を共同相続して共有不動産となる場合があります。
    共有者としての権利、財産価値は平等を実現しつつ、管理処分権限を共有者の一人(受託者)に集約させることで、不動産の「塩漬け」を防ぐことができます。

メリット

  • 成年後見や遺言でないとできないことがある
    身上監護に関しては適切に行えない場合があります。

  • 受託者の指定で揉める可能性
    信じて託す家族(親族)がいるかどうかが重要です。
    また、ある家族に信じて託したものの、管理がずさんであると他の家族や相続人などから不満が出て、トラブルになるおそれもあります。
    そのため、誰に託すかは慎重に決めなければなりません。

  • 損益通算ができない
    信託から生じた不動産所得にかかる損失は、当該信託以外からの所得と相殺することができません。
    また、当該損失は翌年以降に繰り越すこともできません。
    さらに、不動産を信託財産とする信託契約が複数存在する場合、収支の計算は信託契約ごとに行わなければならず、契約をまたいだ損益通算はできません。

  • 高い節税効果は期待できない
    信託の組成それ自体は、原則として相続税対策や節税対策の効果を生じません。
    そのため税務的な効果、メリットを主たる目的とした方には不向きかもしれません。

  • 遺留分侵害請求の対象となる可能性がある
    信託のパターンによっては、受益権の相続が他の相続人の遺留分を侵害しているとして、遺留分侵害請求の対象となる可能性があります。
    ここで「可能性があります」としたのは、実は家族信託と遺留分の関係についてはまだ判例が確定しておらず、現在のところ統一的な見解が定まっていないためです。
    そのため、実際の組成にあたっては遺留分を念頭に置いたうえでの慎重な設計が求められます。