こだまネットとは
NPO法人むさしの成年後見サポートセンター「こだまネット」とは、武蔵野市心身障害児者を持つ親の会「山彦の会」を母体として、親なき後も、知的障害のある子どもの暮らしと権利を守りたいという思いで2014年に設立された武蔵野市の団体です。
親の会だけでなく、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職がその思いに賛同し、活動に参加しています。
武蔵野市からも後援を受け、成年後見制度の普及活動や、様々な勉強会、講演などを企画され、活発に活動されています。最近は、こだまネットの会員さんと知的障害者の成年後見支援に興味のある専門職後見人とが交流できる場を企画されたり、親の立場から新たに成年後見の担当者に引き継いでいくための「こころのバトンノート」という独自のツールを作成されています。私も以前から武蔵野市の障害支援とはご縁があった関係もあり、時々こだまネットさんの活動に参加させて頂いております。こだまネットの会員さんも、賛同する専門職も、みんな熱心に障害者支援について考えていらして、いつも色々な情報や、新たな視点に気づかされ、意義のある時間が過ごせます。
今回、こだまネット17号の会報に掲載する原稿の依頼を頂き、法人後見のテーマを書いて頂けたらとのお話でしたので、私なりに法人後見について、簡単に分かりやすくまとめてみたつもりです。
法人後見にも、注意しないといけない部分もありますが、紙面の都合上、それは次の機会に譲ることにして、まずは、法人後見がどんなものなのか、まとめてみました。今後も、こだまネットさんの活動に参加させて頂き、知的障害者の後見制度利用について、より良い形を求め、勉強していきたいと思います。(井出)
「地域から、法人後見を考える」
2000年4月1日に「民法の一部を改正する法律」が施行され、法人が後見人等となりうることが明文化されて以降、法人による後見人等の数は年々増加し、2021年では、法人が後見人等に就任したケースは3,355件にまで増加しています(2020年は2,820件、2019年は2,451件)。
今回は、法人後見ってなんだろう、というテーマで分かりやすくまとめてみたいと思います。
法人が後見人等になるメリットってなんでしょうか?
この点、大きく分けて3つ考えられます。
まず考えられるのは、『後見業務の継続性』という事です。
例えば、個人で後見をする場合、人間ですから、その人が病気になったり、加齢によって業務が出来なくなる場合があります。
実際、私達もここ数年、専門職後見人が加齢や病気治療により業務が継続できなくなった案件を引継ぐケースが時々あります。
こういったケースは、後見人よりも被後見人の年齢が若い、知的障害者や精神障害者の案件が多いように感じます。
また、ご家族が後見人となり、これまで知的・精神等の障害があるお子さんを支援してきたが、自身も高齢となり、後見業務を法人に委ねたい、という相談も増えてきています。
法人後見の場合には、担当者が病気や怪我で業務ができなくなっても、担当者の変更や、他の職員がカバーすることで、支援を引き継ぎ、ご本人の支援に支障が出ないようにすることができます。
このように、長期にわたる後見が予定されている場合には、法人後見が適しているともいえます。
法人後見のメリットとして2つ目に考えられるのは、『被後見人の多様なニーズへ対応できる』という点です。
特に、多職種によって形成されている組織が行う法人後見では、様々な専門職の視点から、被後見人の多様なニーズに対応することが可能となります。
例えば、法務専門職による隙の無い法的な事務支援を中心に、社会福祉士や精神保健福祉士などの身上保護に強い専門職がしっかり連携することで、意思決定支援や、被後見人の短期・長期的な生活モデルなど、地域の様々な社会資源を組み合わせて、被後見人が安心して生活できる環境を調整していくことができます。
私達が、後見の申し立てをご家族から依頼され、ご本人とご家族に初めてお会いするときに、例えば、法務専門職と福祉専門職が二人で訪れると、「2人の人が見てくれるなんて安心しました!」と仰って下さることがあります。
複数の視点があるという安心感をご本人やご家族が感じられているのかなと思っています。
法人後見のメリットとして3つ目に考えられるのは、『権利擁護の手厚さ』です。
専門職同士が、お互いに支援をチェックしあったり、支援について常に議論を重ねることによって(健全な組織運営がなされていることが前提ですが)、支援の多様性が担保され、被後見人の権利擁護は手厚くなります。
実際に、私達も、専門職の誰かが良い社会資源を発見した場合にはすぐに法人内で共有し、即座に他の案件でも利用できないか検討する、なんてことはよくあります。
令和4年3月に「第二期成年後見制度利用促進基本計画」が閣議決定されました。
これは令和4年度から8年度の5年間について成年後見制度に対する国の基本方針ともいえます。
このなかで、法人後見について記述されている箇所が目に付きます。
「法人後見は長期間にわたる制度利用が想定される障害者への対応という観点から全国各地で取組を推進する必要がある」だとか、「社会福祉協議会は中核機関を担う関係上、地域で社会福祉協議会以外の法人後見を育成する必要がある」、また、「複数の社会福祉法人が連携して後見を担う仕組みの検討の必要性」など、基本計画に触れられているように、国もそれを期待、推進していく「法人後見」は、今後も一定の役割を担っていくのだろうと思われます。
近年、多摩地域にも、様々な法人後見を担う組織が生まれています。
後見業務は、決して簡単に答えが出る業務ではありませんが、この業務に携わる専門職は高い志を持って取り組まれている方が多いと日々感じます。
地域に安定した法人後見を行う組織があることは、その地域にとって大きな社会資源になると思います。
地域で法人後見を育てていくという視点も、今後さらに必要になるのかもしれませんね。
井出晃正(いであきまさ)
社会福祉士・精神保健福祉士・介護福祉士・行政書士、司法書士法人UNIBEST後見業務部リーダー。
高齢者、障害者を含め常時約70名の法人後見を受託し多摩地域を支援している。立川社会福祉士会副会長、立川市民交流大学講師、厚労省自殺防止対策事業「心の健康相談統一ダイヤル」相談員(夜間)、瑞穂町「心の相談」専門相談員、東京精神保健福祉士協会司法SW委員会、公益社団法人成年後見支援センターヒルフェ会員等、多岐にわたる地域支援を行っている。
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