家族信託と親なきあと問題【おしえて!家族信託相談室-第14回】

親なき後問題って?

これまで、家族信託のメリットとして
・認知症対策(資産凍結対策)ができる
・世代を超えて遺産の承継先を決めることができる

といったことをお話ししてきました。

この他にも、家族信託でできることはまだまだあるんです。
そこで今回は「親なき後問題への対策」をお伝えします。

「親なき後問題」?初めて聞く言葉です。

親なき後問題とは、
障がいを持つ子の親が子に対して生活のサポートをしてあげられなくなった後、
誰がどのようにしてその子を支えていくか
というお話です。

ここでいう生活のサポートとは、
①医療サービス・介護福祉サービスの利用といった様々な契約行為
②年金等の収入や生活費・医療費の支出管理などの財産管理
をいいます。

通常は親のほうが先に亡くなるわけだし、
そうすると確かに親としては子のことが心配になるわね…

そうですよね。
ただ、親がサポートできなくなるのは、必ずしも亡くなったあととは限りません。

それはどういうこと?

例えば、認知症を発症した場合です。
以前お話ししたように、認知症になると基本的に法律行為ができなくなるため
これまで行っていた子の生活サポートができなくなってしまいます。

この他にも、病気や事故によって、
ある日突然子のサポートができなくなってしまうという可能性もあります。

このように、親が存命中であっても一定のリスクがあることから、
親「亡き」ではなく親「なき」という表記になっているんです。

なるほど。親が高齢になってくると、
ある日突然ってことはありえない話じゃないわね…。

親が元気なうちに対策を

そうなんです。
つまり、親が亡くなった後ではなく、
親が元気なうちにどのような対策をとっておくかが重要なんです。

例えば以下のようなケースを想定した場合、
一つの方法としては早期(両親が元気なうち)に
成年後見制度を利用しておくことが考えられます。

クリックすると拡大されます

上の図のように、成年後見人の就任後は子のサポートは成年後見人が担います。
そのため、両親の存命中・死後ともに子の生活を保障することができます。

なるほど。両親の負担も少しは減るかもしれませんね。
でも、家族信託はどのように利用するんですか?

成年後見と家族信託の併用

もし信頼できる親戚などがいる場合であれば、
その人を受託者として家族信託を利用することが考えられます。
家族信託では成年後見人に比べて柔軟で幅広い財産管理ができるので、
親の希望する方法で財産の給付が可能
です。
これが家族信託を利用する一つ目のメリットですね。

また、財産の最終的な帰属先を指定することができます。
このケースでは子には相続人がいません。
そのため、もし何も対策を行っていなければ、
子の死後これらの財産は法律の規定で国に帰属する、という問題があります。

子に遺言能力があれば、子の指定する親戚や第三者に
財産を承継させることができますが、この事例ではそれは難しいでしょう。
また、親が子の相続に関して遺言で指定することができないという点は、
前回お話ししたとおりです。

そういえば「相続人がいないと遺産は国のものになる」
って聞いたことがあるわ。

ここで、前回お話しした「受益者連続型信託」を活用します。
まず最初の受益者は両親とし、
両親が亡くなった後は受益者を子にする契約内容とします。
次に、子が亡くなった後の財産帰属先を例えば受託者であったり、
子がお世話になった社会福祉法人などの施設とします。
これにより、財産の最終的な帰属先を指定することができるようになります。
これが二つ目のメリットです。

クリックすると拡大されます

このように、家族信託を利用することで
「子の生活保障」と「財産の最終的な帰属先」を
親の望むかたちで実現できる
のです。

成年後見は使わずに、家族信託だけを使うというのはよくないのかしら?

病院や施設の申し込みといったいわゆる「身上監護」は
成年後見人でなければできませんので、
本ケースのように状況によっては両者を併用するほうがいい
ということもあるんです。
もちろん、成年後見制度には色々な制約があったり
継続的な費用が発生するという面もあるので、
どのようなかたちで対策を行うかは
専門家を交えてしっかり検討したほうがいいですね。

次回は、家族信託と空き家問題についてお話しします!

※本記事は掲載当時の法令等に基づき作成しております。また、一部内容を簡略化しております。