家族信託の登場人物 委託者について詳しく【おしえて!家族信託相談室-第16回】

家族信託の登場人物をおさらい

家族信託の仕組みがだいぶわかってきました。
将来のことを考え、認知症対策として家族信託を利用してみようかと思います。

以前、家族信託は
・財産を託す人(委託者)
・財産を託される人(受託者)
・財産から利益を受ける人(受益者)

で成立するということを教えてもらいましたが、
実際に我が家で信託を行う場合には誰がどういう役割を果たすのか、
具体的に教えてもらえますか?

わかりました。
それでは、今回からは家族信託の登場人物と
それぞれの役割を詳しくご説明していきますね。

こちらが以前にお伝えした、家族信託のイメージです。
今回は、財産を託す人「委託者」についてみていきましょう。

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委託者とは

委託者とは、
財産を保有しており、財産の管理や運用・処分を任せる主体
のことです。
トラスト家の場合、お父様のジョンさんが委託者になるかと思います。

委託者は、信託についての様々な取り決めをすることができます。
以下の図は家族信託契約で定める主な内容です。

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契約を締結することではじめて家族信託は成立しますので、
この家族信託契約の締結は委託者の役割の中でも最も重要なものだといえます。

信託開始後の委託者

なるほど。
そもそも委託者の意思がなければ家族信託は始まらないものね。

そうですね。
ただ実際に家族信託が始まると、
委託者の立ち位置は二次的なものになっていきます。

どういうこと?

家族信託の基本的な運用が
①信託財産の運用・管理
②信託財産から得た利益の享受
となっているからです。

つまり、家族信託契約の締結後は上記①の役割を「受託者」が、
②の役割を「受益者」がそれぞれ担うことになるため、
開始後はこの二人がメインキャストになる、というイメージですね。

委託者の役割

そうすると、信託のスタート後は委託者の出番はないってこと?

いえ、まったく出番がなくなるということではありません。
当事者の辞任・解任に関すること
信託の変更や終了に関することなど、
委託者に認められた権利があります。
委託者の権利については以下をご覧ください。

【委託者の権利】(抜粋)
・受託者、信託管理人、信託監督人等の辞任に対する同意権
・受益者との合意による受託者の解任権
・裁判所に対する受託者、信託管理人、信託監督人の解任申立権
・信託の変更の合意権または受託者に対する意思表示
・裁判所に対する信託の変更の申立権
・受益者との合意による信託終了権
・裁判所に対する信託の終了の申立権
・信託の終了時の法定帰属権利者
など

この他にも、通常は受益者が有している権利を信託行為で別に定めることで、
委託者が受益者とともに行使できるようにすることも可能です。
例として
・受託者の権限違反行為の取消権
・受託者の利益相反行為に関する取消権
などがあります。

なるほど、信託開始後は完全に出てこなくなる
というわけではないんですね。

委託者が亡くなった場合は?

家族信託の途中で委託者が亡くなった場合、
その後の委託者はどうなるんですか?

委託者の地位が相続されるか、という問題ですね。
これには2つのパターンがあります。

2つのパターンって?

これまで詳しくお伝えしていませんでしたが、
家族信託には大きく分けて2つの方法があるんです。
一つ目は、
遺言書に信託をすることを記し
遺言書の効力が生じる(委託者が亡くなる)ことで信託がはじまる「遺言信託」

です。
二つ目は、
委託者と受託者で契約を交わすことで信託を開始させる「契約信託」です。
ちなみに、これまでお話ししてきた認知症対策としての家族信託などは、
委託者が存命中の対策ですから、契約信託ということになりますね。

委託者の地位が相続されるかどうかは
家族信託が契約信託によってなされたか、
それとも遺言信託によってなされたかによって異なります。

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遺言信託では原則として委託者の地位は相続されません
これに対して、
契約信託は相続によって委託者の地位がその相続人に承継されます。

どちらの場合でも、委託者死亡後の委託者の地位について
原則と異なる取り決めを定めておくことも可能です。

遺言信託では、原則として委託者の地位は承継されないため
委託者不在ということになります。
そうすると、もし信託内容の変更の必要が生じた場合にも
軽微な変更しかできなくなってしまいます。

一方、契約信託では原則として委託者の地位が相続人に承継されるため、
相続人が多い場合などは利害関係が複雑になってしまうおそれもあります。

このようにいずれの場合であっても、
特段の定めがなければ不都合が生じてしまうリスクもあります。
このため、実務上は「受益者の変更と同時に当該変更後の受益者を委託者とする」と
いった信託を設定することなどもあります。
これにより、遺言信託であれば受託者不在のリスク、
契約信託であれば利害関係の複雑化を防ぐ、という狙いです。

次回は受託者について詳しくお話しします!

※本記事は掲載当時の法令等に基づき作成しております。また、一部内容を簡略化しております。