信託財産(託された財産)は誰のもの?
家族信託では
「受託者の判断で委託者の財産を管理・処分できる」
という話だけど、なぜそういうことができるの?
以前、家族信託は「家族を信じて財産を託すこと」と説明しましたが、
この「託す」という点がポイントです。
委託者と受託者が信託契約を結ぶ(=託す)と、
その財産の名義は受託者のものとなるのです。
つまり、財産名義が受託者に移ったことで、
受託者自身が信託財産を管理・処分することができるのです。
ただし、これらの財産が完全に受託者のものになるわけではありません。
受託者の権限はあくまでも信託契約の範囲内に限られるため、
自由に管理・処分ができるわけではないのです。
受託者の名義になるから管理や処分ができるようになる…。
なんとなく理屈はわかったけど。
そうすると、例えば信託された土地があったとして、
そこを受託者が売ろうとした場合にはどうしたらいいのかしら?
つまり、「その土地が信託されていること」や
「売る権限が受託者にあること」はどうやって証明するの?
不動産が信託されると
その事実が登記簿に記載されるようになるので、
これにより証明することができます。
実際に見てもらったほうがいいかもしれませんね。
不動産登記簿の記載例
不動産登記簿の「権利部」と呼ばれる部分
(図の右上・緑で囲まれている箇所)には、
文字通り土地の権利者名が表示されています。
もし売買などで土地の持ち主が代わると、
この部分に新しい買主の名前が記載されることになります。
家族信託契約が結ばれた場合、この権利者部分には
受託者の名前(頼子さん)が記載されるようになります。
注目していただきたいのは、
「所有者 頼子」ではなく「受託者 頼子」となっている点です。
ここが先ほどお話しした、
土地の名義は受託者の頼子さんに代わるが
完全に頼子さんの土地になるわけではないということです。
「受託者」という肩書き付の権利者、という言い方もできますね。
肩書き付の権利…
なるほど、完全な権利ではないということね。
また信託された不動産の登記簿には
下図のような「信託目録」が作られます。
信託目録には、家族信託契約書に書かれている信託の目的や、
受託者の権限などが抜粋されています。
不動産登記簿は誰でも見ることが可能なので、
例えば土地を買おうとしている人がこの登記簿を見ると、
実際に売却権限があるのはジョンさんではなく、
頼子さんだということがわかるのです。
なるほど、これなら受託者も自分に権限があることを
明らかにできるし、買う側も安心できそうね。
不動産の登記簿についてはわかったけど、
銀行の預金口座は信託されるとどうなるのかしら?
銀行預金の名義
銀行預金には不動産登記簿のようなものがありません。
そのため、信託の専用口座で管理する方法が一般的です。
この場合、口座名義は
・トラストジョン 信託受託者 トラスト頼子
・トラストジョン 信託口受託者 トラスト頼子
・委託者 トラストジョン 受託者 トラスト頼子
といったかたちになります。(金融機関ごとに異なります)
こうすることで、信託用の口座であることがわかるようになっているんです。
ただ注意していただきたいのが、
すべての金融機関で家族信託用の
口座開設ができるわけではない、
ということです。
それはどうしてなの?
家族信託という制度が始まってから、
まだそれほど期間が経っていないことが理由だと考えられます。
金融機関としては、取扱い例がないことやリスクなどを
懸念していると思われます。
ただ、ここにきて家族信託の認知度が向上したこともあり、
以前に比べると対応可能な金融機関は確実に増えてきています。
実は成年後見制度が始まった当初も、
対応できる金融機関が少なかったということがありました。
しかし、今ではその多くが対応するようなってきていますので、
家族信託も制度の普及にともない対応可能な
金融機関は増えていくと思われます。
もし自分が利用している銀行が家族信託に対応していない場合、
家族信託は使えないのかしら?
いえ、必ずしも利用できないということはありません。
その場合は、家族信託に対応した別の金融機関で
新しく信託用の口座を開設することが多いですね。
また、受託者の個人口座を新規で作り、
その口座の口座番号等を信託契約書に盛り込むことで特定する
というやり方もあります。
ただいずれにしても
「口座を作ってはみたものの、実際に預金を引出そうとしたら
銀行から拒否されてしまった」といったことのないように、
専門家を交えた上での金融機関との事前調整は必須です。
なるほど。
信託された財産の取扱い、なんとなくイメージができました。
不動産にしても銀行預金にしても、
それが信託されたものだとわかるかたちで管理されるようになるのね。
今回のまとめ
今回は信託財産と名義の関係についてお話ししました!
イメージがつかみにくい点もあるかもしれませんが、
少しでもご理解の助けになればと思います!
※本記事は掲載当時の法令等に基づき作成しております。また、一部内容を簡略化しております。
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