認知症と成年後見制度③ -成年後見の注意点-【おしえて!家族信託相談室-第4回】

成年後見人がいれば安心?

成年後見の大まかな内容はわかりました。
そういえば初回に、
「認知症になった場合、成年後見人をつけたからといって必ずしも安心ではない」
との話がありましたけど、これは結局どういうことなんですか?

はい。それに関しては
①本人保護のための厳格な運用
②かかる費用
③続く期間でというテーマでお話ししますね。

①本人保護のための厳格な運用

後見制度は本人の権利や利益の保護を目的としています。
そのため運用にあたっては「本人資産の維持」という点が重要視され、
資産の運用や処分といった行為については、
裁判所の監視・監督のもとで慎重な判断がなされる
のです。
つまり、本人の財産を減らすような行為は、原則的にはできなくなります

「成年後見人は本人の支援者」というのだったら、
当然それぐらいしっかりやってもらったほうがいいわね。

ただ、これが時として妨げになってしまうようなケースもあるのです。

どんな時ですか?

例えば、これまで生前贈与を行ってきたときです。
相続税対策として本人の財産を毎年家族に
贈与することがありますが(暦年贈与といいます)、
成年後見が始まるとこれはできなくなります。
なぜなら、贈与という行為は本人の立場からすると、
財産を減らすことに他ならないから
です。
また同じ理由から、財産管理の方法も元本が保証されたものなど
安全確実な方法が基本となり、投機的な運用などはできないようになっています。

なるほど、贈与は確かに将来の相続人である
家族の利益にはなるかもしれないけど、
本人には利益はないわね…。

また、自宅(居住用不動産と呼ばれます)の
建替えや売却の際などにも問題になるおそれがあります。
自宅の処分は本人の心身や生活にとても大きな影響を与えるため、
この場合には事前に裁判所の許可を得る必要があります。
例えば「認知症の親名義の自宅を施設入所費用捻出のため売却したい」
「認知症の親の自宅を、長男夫婦と同居するため2世帯住宅に建替えたい」
といったケースでは裁判所の許可が必要になります。

我が家の場合、自宅を売ったりすることはないとは思うけど…。
でも、いざというときに身動きが取れなくなるかもしれない、というのは不安ね。

②かかる費用

次に、費用についてです。
申立ての際にかかる費用としては収入印紙や切手代などがありますが、
およそ1万円前後となっています※1。初期費用はそれほど高額ではありません。
※1 この他に医師の診断書作成費用がかかり、
また場合によっては別途医師の鑑定費用がかかることがあります

問題なのが、成年後見人への毎月の報酬です。
報酬の支払いは法律で決まっているわけではないのですが※2、
司法書士や弁護士といった専門家が成年後見人になった場合、
毎月の報酬を支払うことが一般的です(裁判所が報酬の支払いを決定します)。

報酬の額は本人の財産額により異なりますが、
原則として月額2~6万円となります。
たとえば報酬が月額2万円の場合、年間で24万円、
仮に10年だと240万円ということになります。
※2 民法の条文上は「家庭裁判所は被後見人の財産の中から(中略)
相当な報酬を後見人に与えることができる」とされています

結構な金額になるのね…。
でも、凍結された口座から預金を引出してもらうことが目的なんだから、
無事にお金をおろせればあとは成年後見の必要はないわよね?
10年も続くことなんてないでしょ?

③続く期間

いえ、実はそういうわけにもいかないんです。
確かに申立ての理由が預金引出しだったとしても、
成年後見の目的はあくまでも本人の支援という点にあるので、
支援すべき状況が続いていれば成年後見は終わらないんです。

どういうことなの?

判断能力がなくなったことにより成年後見が開始したということは、
判断能力が回復しないかぎりは成年後見も続くということです。
つまり、認知症になった方が日常生活において
法定後見の必要がないぐらいまでに回復すれば
成年後見を終わらせることはできますが、
現実的にそのようなケースは考えにくいですよね…。
そのため一度開始した成年後見は、基本的に本人が亡くなるまで続く
と考えてください。

今回のまとめ

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話し出すと止まらないご主人様、
成年後見制度の説明に3回も費やしてしまいました!
次回からは、いよいよ(やっと)家族信託のお話をしていきます!

成年後見人の報酬に関するめやす

下にあるのは東京家庭裁判所立川支部が公表している、
成年後見人の報酬に関するめやすです!
参考にしてみてください!

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動画もご覧ください!

※本記事は掲載当時の法令等に基づき作成しております。また、一部内容を簡略化しております。